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EOR(Enhanced Oil Recovery)とは?石油回収最新技術の仕組みを解説!

2022.7.12

地球全体に存在する石油の量が有限であることは不変の事実です。再生可能エネルギーへのシフトが完了するまでに、私たちは、この限られた資源を可能な限り有効活用せねばなりません。

地中に埋蔵されている石油を余すところなく回収するにあたって、その鍵となる技術がEOR(Enhanced Oil Recovery:石油増進回収法)です。この記事では、EORの種類や仕組み、EORに取り組む企業などについて網羅的に解説します。

EOR(Enhanced Oil Recovery)とは?

石油を回収する手順には、石油の自然噴出による「1次回収」、外圧を加えることで石油を汲み上げる「2次回収」、石油に物理的または化学的な変質を加えることで回収する「3次回収」があります。

EOR(Enhanced Oil Recovery)は、3次回収に該当し、石油の回収率を向上させる技術です。以下では、EORについて詳しく理解するため、石油の性質と回収手順について解説していきます。

石油の性質と回収手順

石油は、土砂の堆積層に埋もれた植物や藻などの生物遺骸に高温・高圧が加わり、長い時間をかけて変化したものです。石油は地中にある他の固体堆積物より軽いため、押しのけられて上方に移動し、液体が透過できない硬い岩盤(遮蔽層)に閉じ込められ、油田を形成します。

上記のようなプロセスを経て形成される油田には、大きな圧力がかかっています。よって、石油を閉じ込めている遮蔽層に穴を開ければ、石油は勢いよく噴き出し、回収することが可能です。

このような油田に加わる自然の圧力を利用した石油回収方法を「1次回収」と呼びます。

石油回収方法の油田に加わる自然の圧力を利用した1次回収の図

「1次回収」により回収できる石油の量は、個々の油田の特性にも拠りますが油田全体の埋蔵量に対し、1/4~1/3程度です。なぜなら、石油が自噴するに連れて油田内部の圧力は低下し、次第に噴出量は減少していくからです。

そこで、「外部から人工的に圧力を加える」、「ポンプで汲み上げる」などの方法で、自噴しなくなった油田から、さらに石油を回収します。これが「2次回収」です。

外圧を加えるためには、油田に水やガスなどを注入します。

石油回収方法の外部から人工的に圧力を加える2次回収の図

近年、非破壊透過検査技術やコンピュータシミュレーション技術が向上したことで、どこに水やガスを注入して、どのように圧力を加えれば、効率良く石油が回収できるかについての予測精度は高まりましたが、それでも1次回収と2次回収を併せた石油の回収率は、埋蔵量の50%に満たない程度です。その原因は、石油の性質にあります。

石油は全体が均一ではなく、固体不純物を多く含み、高い粘度を有する液体です。油田上方でこそ比較的粘度の低い石油ですが、下方に沈殿している石油は非常に粘度が高く、水やガスで押し出すことができません。こうした高粘度な石油が全体のほとんどを占めているのです。

高い粘度を有し、砂礫と混じり合った石油を回収するためには、石油自体の性質を変化させ、粘度を低下させねばなりません。
ここで用いられる物理的、または化学的な石油変質操作、及び回収作業を「3次回収」、またの名を「EOR(Enhanced Oil Recovery)」と呼びます。

IOR(Improved Oil Recovery)との違い

間違えやすい用語として、IOR(Improved Oil Recovery:改良型石油回収法)があります。日本語にすればどちらも似たような意味となりますが、IORは1次回収以外の全ての石油回収作業を含む用語で、「EOR(Enhanced Oil Recovery)」は3次回収のみを指します。

EORの3つの石油増進回収法

EORは要するに、「石油を柔らかくして押し出す」ことによって、石油回収率を高めるものですが、その方法は様々です。代表的な方法は以下の3つに分類できます。

ここからは、EORの具体的な回収方法を解説します。

ガス圧入法

ガス圧入法は、石油にガスを混ぜることで粘度を低下させる方法で、最も広く用いられるEORです。

ガスが石油に混ざると、液体の中に隙間が増え、石油の粘度が下がります。

粘度とは即ち、液体分子の相互作用であり、液体分子同士が互いを引き合う力です。気体が液体に混和すると、液体の中に隙間が増え、液体分子同士の相互作用が弱まる、という仕組みです。

ガス圧入法で使用するガスは、石油に混和しやすいガスであり、代表的なものはCH4(メタン)やCO2(二酸化炭素)です。また、石油に混和しなかったガスは、油田内部の圧力を高め、石油を排出させることに寄与します。

石油回収方法の3次回収(EOR)ガス圧入法の図

CO2を使ったガス圧入法は、地球温暖化を抑制する手段としての効果もあり、近年注目されています。詳しくは後述します。

熱回収法

熱攻法とも呼ばれる熱回収法は、石油を加熱することで流動性を高める方法です。

加熱する際には、水蒸気や熱水を用います。油田に圧入する水蒸気や熱水は、内部の圧力を高めて石油を押し出す作用もあるため、その効果は部分的に2次回収と重複しています。

石油回収方法の3次回収(EOR)熱回収法の図

熱回収法は、ガス圧入法に次いでよく用いられるEORです。

1次回収以外の全ての回収法に言えることですが、油田に外部から物質を投入すれば、回収された石油にその物質が多く混ざり、後の精製工程がより困難なものとなります。また、回収にかけるエネルギーが、回収した石油から取り出せるエネルギーを超えてしまっては意味がありません。このため、回収工程はインプットとアウトプットの厳密な計算のもとに実行されます。

化学的回収法

上記2つのEORは、どちらも物理的に石油を変質させる方法でしたが、化学反応によって石油の成分を部分的に別のものに変え、粘度を下げる方法もあります。これらはまとめて化学的回収法、またはケミカル攻法と呼ばれます。

アルカリ、高分子、界面活性剤など、用いられる薬剤は様々で、それらが起こす化学変化もそれぞれ異なりますが、石油の流動性を高めるという目的は共通です。

石油回収方法の3次回収(EOR)化学的回収法の図

化学的回収法は、薬剤自体の耐熱性や費用対効果に問題が露呈し、現在はあまり用いられていません。北米EOR市場における技術ごとの売上高を見ると、その割合は2%程度に留まっています。

EORとCCS/CCUの関係性

ガス圧入法のところで触れたCO2の利活用について補足いたします。

油田に圧入するガスにCO2を用いる方法は、CO2圧入攻法と呼ばれるEORの方法の一つです。一方、近年注目を浴びるCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)という考え方がありますが、こちらは発電所や化学工場などから排出されたCO2を他の気体から分離して集め、地中に貯留・圧入する方法です。

CO2EORは、地中にCO2を圧入するという意味ではCCSと同じですが、枯渇油田にCO2を圧入し石油が地上に噴出すると、圧入したCO2の大半は石油と共に油田から地上に出てくることとなります。この時、CO2の圧入量が放出量を上回ればCO2削減が実現できることになりますが、CO2を利用するという意味でCCU(Carbon dioxide Capture, Utilization)の1つと言われております。

CCS/CCUについては、過去に当サイトでも取り扱っています。詳しくは「CCUSとは?CO2を再利用して排出量削減に導く取り組みを解説!」をご参照ください。

EORに取り組む企業とEORプロジェクト

最後に、EORのプロジェクト事例を紹介します。いずれの方法においても、北米を中心とした産油国での取組みが活発ですが、油田の少ない日本の企業は、海外のプロジェクトを支援する形で関わっています。

Petra Nova社 CCUSプロジェクト(米国)

米テキサス州の火力発電所で発生するCO2を分離・回収してパイプラインで輸送し、130km離れた油田のガス圧入式EORに利用するプロジェクトです。

事業を牽引するPetra Nova社は、NRG Energy社(米)と日本のJX石油開発株式会社の共同出資会社で、みずほ銀行らによるプロジェクトファイナンス、三菱重工業によるCO2回収技術ライセンス供与など、多くの日本企業が関わっています。

米国Denbury Inc.と三井物産株式会社によるCarbon-Negative oil事業

同社は、CCUS(Carbon Capture, Utilization, and Storage:CO2回収・利用・貯蔵)技術を用いて、産業排出されるCO2を引き受け、有効利用する「Carbon-Negative Oil」事業の取り組みに向けた共同作業を開始しました。
この取組みの中で、回収されたCO2は、EORとして活用する計画です。

・石油資源開発株式会社(JAPEX)

JAPEXは、国内外で石油や天然ガス資源の権益を保有する石油開発会社です。EORの運用に携わり、EOR技術適用のための各種分析、貯留層のシミュレーションなどを行なっています。

・ダウ・ケミカル日本株式会社

ケミカル攻法用化学薬品の開発に携わり、ガス圧入法や水攻法と組み合わせることで、回収率の向上を模索しています。

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