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アンモニア発電とは?脱炭素社会実現に向けたメリットと問題点

2021.9.27

脱炭素社会の実現に向けて様々な取り組みが実施される中、新たに注目を集めているのがアンモニアを利用した発電です。この記事では、アンモニア発電が注目されている理由やアンモニア発電の仕組み、解決すべき課題などを網羅的に解説していきます。

アンモニア発電とは?

2015年のパリ協定では、各国が長期的に目指す目標を設定しました。この目標を実現するため、各国政府は制度面の改革を進めるとともに、グリーンエネルギーに関する技術開発を進めています。

パリ協定について詳しくは「パリ協定とは?日本の取り組みやアメリカ離脱の経緯をわかりやすく解説」で解説しています。

パリ協定以前から、ゼロエミッション達成に向けた取り組みの一つとして研究されていたのが「水素」を利用した発電です。水素は、製造時にエネルギーが必要となるものの、発電時にはCO2を排出しません。水素を利用した燃料電池車などの普及は、CO2排出削減の大きな後押しになると期待されています。

一方で、水素利用には課題も多々あります。中でも一番の問題は、水素の貯蔵と運搬です。常温で気体の水素は、液体や固体である他のエネルギー資源(石油、石炭、液化天然ガスなど)と比べて体積が大きいため、一度にたくさん運搬することができません。液体状態を維持するためには極低温(-200度以下)を保つ必要があり、爆発の危険性もある水素は、扱いが難しく、貯蔵や運搬に伴うエネルギーロスが大きくなってしまう問題を抱えていました。

こうした問題を解決するために、水素のキャリアとして検討が始まったのが「アンモニア」です。アンモニアも常圧では気体ですが、少しの圧力を加えるか、少し冷却するだけで(-30度程度)液体となるため、水素と比べて貯蔵・運搬が大変、容易です。一時的に水素をアンモニアに変換し、使用時に再度変換して水素を作れば、貯蔵や運搬のコストを低減できます。

アンモニアを発電に利用

一方で、「アンモニアを直接燃やせば良いのではないか」という検討も始まりました。
アンモニアは窒素原子と水素原子のみで構成されるため、気体水素と同様、燃焼時にCO2を排出しません。水素と同様にクリーンな燃料として利用が可能です。
このような流れから、アンモニアを発電に利用しようという取り組みが「アンモニア発電」です。

そもそもアンモニアとは?

アンモニアとはどういった物質なのか、簡単に説明します。
化学式 NH3 で表されるアンモニアは、常温で無色気体であり、特有の刺激臭を持ちます。水に良く溶け、水溶液(アンモニア水)として利用されることも多いです。常圧では-33度で液体となります。
代表的な利用方法は、農業用肥料の原料、次いで樹脂の原料です。

アンモニアは1909年にハーバー・ボッシュ法という製造法が確立したことで、大量合成が可能となりました。ハーバー・ボッシュ法は当時の農産業に革新をもたらした合成方法です。農作物を育てるには、窒素・リン・カリウムという肥料の3要素が不可欠ですが、化学肥料の大量合成が可能となったことで、農作物の収穫量が飛躍的に向上しました。

農業において非常に重要な役割を担うアンモニアですが、21世紀になるまではエネルギー分野での活用は、ほとんど検討されていませんでした。それは、アンモニアが「燃えにくい」物質であることに起因します。アンモニアは燃焼速度が遅く、酸素濃度が高い場合であっても、火炎がすぐに消失し、安定的に燃焼し続けることができません。これは水素と違って爆発の危険性が少ないという事でもありますが、燃焼でエネルギーを取り出す上ではデメリットとなります。

アンモニアをエネルギーとして利用

こうした状況を打開したのは、東北大学 早川、小林らの「スワール流」に関する研究です。気体状態のアンモニアの渦状の流れを制御することで効率的に空気と触れさせ、安定的に燃焼を持続させることに成功しました。

研究はさらに気体アンモニアから液体アンモニアに進みます。アンモニアを気化させるには特別な設備を必要とし、実用化の道を阻んでいたためです。この研究は2020年に実を結びます。こうして、液体アンモニアを持続的に燃焼させることが可能となり、アンモニア発電が現実的な選択肢として名乗りを上げることになりました。

アンモニア発電の仕組み1:燃焼

上述の通り、アンモニア発電の基本原理は、火力発電と変わりません。燃料であるアンモニアを燃やし、熱エネルギーを得てタービンを回転させ、電気に変えるというものです。

アンモニアは燃えにくいので、専用のバーナーを取り付ける必要がありますが、基本的には既存の火力発電設備を流用することができます。これにより、導入コストを安く抑えることができ、電力の値上がりを防ぎます。これは太陽光発電などの電力単価の高い発電方法と比べても明確な利点です。

将来的には 100%アンモニア専燃の設備拡充を目指したいところですが、一度にすべて移行することはできません。アンモニア発電への移行段階には、従来の化石燃料(石炭)とアンモニアを混合して燃やす方式で普及を図っていく狙いです。東京電力グループと中部電力の合弁会社である JERAは、この混燃方式をいち早く取り入れ、2024年には愛知県碧南市の碧南火力発電所にて、アンモニア 20%の混燃実証を目指すことも発表しました。

実験室レベルでは十分に高効率な発電が可能となっていますが、今後は大規模発電へとスケールアップしてく必要があります。規模が大きくなれば、安定した燃焼状態を保つことはさらに難しくなりますし、酸性雨の原因となる窒素酸化物(NOX)の排出も懸念されます。今後はこうした課題を解決しつつ、アンモニア発電の設備拡充を進めていく必要がありそうです。

熱エネルギーでタービンを回転させる

JERAが示すアンモニア発電ロードマップ

JERAは、アンモニア発電に関するロードマップを示しています。

2024年には実証実験が始まると述べましたが、続く2030年にはアンモニアを20%混燃する火力発電所の運用を開始し、2040年までに保有する全火力発電所で20%混燃を達成することを目標としています。その後は次第に混燃率を拡大していき、2050年までには、全火力発電所でアンモニア100%の専燃を達成する計画です。

アンモニア発電の仕組み2:燃料電池

一般に「アンモニア発電」と言うと、先に述べたようにアンモニアを石炭の代替として用い、熱エネルギーを介して発電する「火力発電」を指すことが多いようです。

しかし、アンモニアを用いた発電方法は1つではありません。「水素」の代わりにアンモニアを用いた「燃料電池」としての活用も進められています。こちらはまだ研究レベルですが、京都大学と国内民間企業による共同研究グループが推進しています。

燃料電池は、2枚の電極板を導線で繋ぎ、極板間を電解質(導電性物質)で満たしたものです。負極にアンモニア、正極に酸素を吹き付けるとそれぞれ以下のような反応が生じ、起電力を生み出します。

起動力を生み出す

負極:2NH3 + 3O2- → N2 + 3H2O + 6e-
正極:3/2 O2 + 6e- → 3O2-

燃料電池全体で見ると、
2NH3 + 3/2 O2 → N2 + 3H2O

という反応が進行し、アンモニアを燃焼したときと同じ反応が起きるため、燃料電池と呼ばれます。燃料電池には大規模な設備が必要ないため、将来的にはアンモニアを用いた燃料電池車や家庭用発電システムに応用されることになるでしょう。

アンモニア燃料電池は、既に水素燃料電池と比べても遜色のないほど高い発電効率を有します。しかし、動作温度が高い(700度~900度)ために劣化が激しいことが特徴です。この劣化のメカニズムを解明し、長く使える燃料電池を開発することが今後の課題となります。

アンモニアの生産と供給

様々な研究機関がアンモニアを用いた発電方法について研究開発を進めていますが、発電方法の模索と共に進めていかなければならないのが、供給の問題です。

貿易統計及び経済産業省生産動態統計年報によると、2019年の国内アンモニア消費量は約100万トン、そのうち8割を国内で生産しています。

もし今後、石炭火力による発電をすべてアンモニアに置き換えることを考えた場合、必要なアンモニアは約1億トンとなり(経済産業省資源エネルギー庁試算)、現状では全く足りていないことが分かります。アンモニア発電推進のためには、アンモニアの生産拡大、及び海外から調達するためのサプライチェーン構築が必要です。
では、アンモニアはどのように生産されるのでしょうか?

アンモニアはハーバー・ボッシュ法を用いることで、水素から作られます。現在、工業用の水素は2通りの方法で作られるため、アンモニアの供給ルートも主に2通りです。

水素の供給ルート1つ目は、石油や天然ガスからの分離です。これら化石燃料に含まれるメタンなどの炭化水素を水蒸気と反応させて、水素とCO2に分離します。
この方法では、水素生成時にCO2などの温室効果ガスの発生は避けられません。そこで、排出される温暖化ガスは回収して地中に埋める工夫が為されます。この場合、大気中に放出される温室効果ガスの量を低減することができます。こうしたカーボンニュートラルな方法で得られた水素から生産されたアンモニアは「ブルーアンモニア」と呼ばれます。

もう1つの方法は、水の電気分解です。
こちらも、化石燃料を用いて得られた電気で水素を生産したのでは大気中に温室効果ガスが放出されてしまうため、太陽光発電などのグリーンエネルギーで水素を生産する工夫が為されます。こうしたグリーンエネルギーで作られたアンモニアは「グリーンアンモニア」と呼ばれます。

ゼロエミッションの達成には、上記のブルーアンモニアやグリーンアンモニアの生産拡大と活用を広めていく必要があるでしょう。これも今後の課題です。

アンモニアを製造する

また、ハーバー・ボッシュ法を用いる方法以外にも、新たなアンモニア製造方法が検討されています。
大阪大学では光触媒技術を用いて、「太陽光」と「海水」から「常温・常圧」でアンモニアを合成することに成功しました。この技術が進展していけば、将来的には、広大なプールの一面に海水を注ぐだけで、アンモニアを生産することが可能になります。生産効率の問題からまだまだ実用化には至りませんが、アンモニアの生産技術は現在も進歩を続けています。

アンモニア発電のメリットと課題

最後に、アンモニア発電によるメリットと課題を簡単にまとめます。

メリット

  1. 発電時にCO2を排出しない
    アンモニアは水素と同様、発電時にCO2を排出せず、地球温暖化抑制に貢献します。
  2. 水素と比べて貯蔵・運搬が容易
    アンモニアは液体として運搬できるため、水素発電で課題であった貯蔵・運搬の難しさを解決し、エネルギーロスを低減します。
  3. 工業的に現在も広く使われる材料であるため、扱い方が確立している
    アンモニアは、これまでにも化学肥料や樹脂の原料として用いられてきたため、取り扱い方法が広く知られています。導入段階において、新たなガイドラインの制定や研修をする必要がほとんどありません。
  4. 火力発電施設を改修してそのまま使うことができ、導入が容易、導入コストが安い
    既存の火力発電施設を改修し、専用のバーナーを取り付けるだけでアンモニア発電が可能となるため、現在稼働中の火力発電施設を廃炉にする必要はありません。これにより、導入のコストが低下します。

課題

  1. 設備の導入拡大・スケールアップ
    実験室レベルでは十分な発電効率が得られていますが、実用レベルの巨大な設備においての運用には課題が残ります。スケールアップしても同様のパフォーマンスが発揮できるように、研究が必要です。
  2. NOxの排出抑制
    水素と異なり、アンモニアは燃焼時に酸性雨の原因となるNOXを排出します。
  3. 燃料電池としての利用に向けた研究開発
    燃料電池としての利用に向けては、耐久性や効率向上に課題が残ります。
  4. 安定供給へ向けた製造基盤・サプライチェーンの構築
    現在国内で製造されるアンモニア、及び海外から輸入されているアンモニアだけでは、アンモニア発電を賄うための量が足りていません。アンモニア発電普及のためには、アンモニアの製造方法、及び海外からの輸入ルート確保も必要となります。

アンモニア発電には、可能性がある一方で課題もあります。今後は、課題解決に向けた研究の発展などに注力し、活用に向け検討していくフェーズになるといえるでしょう。

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