JCM(二国間クレジット制度)とは?仕組みやパートナー国を紹介
2022.12.7

公開:2022年03月01日
更新:2022年12月07日
JCM(二国間クレジット制度)は、先進国が発展途上国の温室効果ガス削減プロジェクトに、技術や資金を支援する制度です。
日本はパリ協定が締結された2015年より前から、JCMに積極的に取り組んでおり、25か国とJCMを構築することで、既に多くの実績を挙げています。
この記事では、JCMとは何か、JCMの基本概念、メリットやCDM(クリーン開発メカニズム)との違いなどについて解説します。
JCM(二国間クレジット制度)とは
JCM(Joint Crediting Mechanism:二国間クレジット制度)とは、先進国と途上国が協力して温室効果ガスの削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う制度です。
国連や国際的環境NPOなどが主導する中央集権的制度ではなく、各国が独自に進める2国間協定で、日本では2013年に最初のJCMが結ばれました。
JCMの仕組み
先進国側は、途上国に優れた低炭素技術や製品、システムの提供、インフラの普及、緩和活動を実施し、途上国の温室効果ガスの削減・吸収に協力します。
この温室効果ガス削減効果を評価した後、実現した削減効果の一部は、先進国側が温室効果ガス削減を行ったものとみなされます。つまり、温室効果ガス削減に対する貢献を2国間で分けあうことができる制度です。
先進国からすれば、自国で排出される温室効果ガスを、途上国での排出削減分で埋め合わせ(オフセット)することができます。こうした活動を「カーボン・オフセット」と呼びます。
カーボン・オフセットについて詳しくは「カーボン・オフセットとは?必要性や企業の取り組み事例をわかりやすく解説」をご参照ください。
また、JCM(二国間クレジット制度)の「クレジット」とは、再生可能エネルギーの利用や植林・森林保護などにより実現した温室効果ガスの削減・吸収量を、決められた方法により定量化・数値化したものです。クレジット化することで、温室効果ガスの削減・吸収量を企業間や国家間で取引できるようになります。
日本は2011年から、途上国とJCMに関する協議を重ね、2013年にモンゴルとJCMを構築したのを皮切りに、これまでに25か国とJCMの署名をしてきました。
2015年のパリ協定においても、その6条でクレジットによる温室効果ガス削減目標の国際的な移転について記述されており、今後、さらにJCMが活用されると考えられます。

JCM(二国間クレジット制度)の基本概念
JCMの基本概念は以下の3点で構成されています。
- 優れた脱炭素技術等、製品、システム、サービス、インフラの普及や緩和活動の実施を加速し、途上国等の持続可能な開発に貢献
- パートナー国で実施される緩和行動を通じて、日本からのGHG排出削減又は吸収への貢献を定量的に適切に評価し、それらの排出削減又は吸収を日本のNDC(国が決定する貢献)の達成に活用する
- パリ協定第6条に沿って実施し、地球規模での温室効果ガス排出削減・吸収行動を促進することにより、国連気候変動枠組条約の究極的な目的の達成に貢献
参考:環境省二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism(JCM))の最新動向
まず、1点目は先進国側の取り組みです。
日本はこれまで25か国との間でJCMの署名をしており、合計227件の環境省JCM資金支援事業の実績があります。
2点目は、温室効果ガスの削減量に関するものです。
先進国と途上国の両国政府の代表者により合同委員会を制作し、合同委員会は第三者機関を指定します。
これまで日本では、上記227件の環境省JCM資金支援事業の実績により、 2,399,212t CO₂/年(想定)の削減量を実現しました。
3点目は、国際条約の達成についてです。
JCMのクレジットの取引は、パリ協定の第6条に沿って実施されます。
パリ協定の第6条は、海外で実現した温室効果ガスの緩和成果を、自国の排出量削減目標にオフセットすることを定めた規定です。
先進国が途上国に、温室効果ガスの削減に関する技術を支援し、国際条約に則ってクレジットのやり取りをすることで、地球全体で削減目標の達成、及び持続可能な開発を目指します。
パリ協定については「パリ協定とは?日本の取り組みやアメリカ離脱の経緯をわかりやすく解説」で詳しく解説しています。

JCM(二国間クレジット制度)のメリットと課題
以下では、JCMのメリットや課題について解説します。

メリット
JCMは先進国側と途上国側の双方にメリットのある制度です。
途上国では、先進国から技術的支援を受けることができ、自国の技術蓄積が促進されます。新たに導入された設備や事業は雇用を生み出し、自国内経済の活性化にも繋がります。
他方、先進国側は、途上国で排出量を削減した分だけ、自国による排出量とオフセットできます。途上国における温室効果ガス排出抑制に貢献していることが数字で示されれば、国際社会における評価も高まります。
また、JCMは、両国関係の改善にも寄与します。JCMをきっかけとして両国の経済的、政治的結びつきが強まれば、その次の事業創出にも繋がる可能性があります。
過去のCDMと違い、制度設計がシンプルであるため、導入が容易、というメリットもあります。
課題
JCMの抱える主な課題は、「主管組織の不在」に起因します。
まず、各国がそれぞれ独自に決めたルールに則って制度運営をしているため、協定を結んだ両国以外の国との制度的な互換性がなく、仮にJCMを通じて日本が「クレジット」を獲得したとしても、そのクレジットを国際的な取引に利用することができません。つまり、クレジットの利用範囲が国内に制限され、これがJCM拡大を阻害する要因となり得ます。
今後は、JCMのルールを各国間で少しずつ擦り合わせていき、JCMで獲得したクレジットを共通のクレジットへ変えていくことが求められます。
またその際、各国が自国の利益を優先し、自国に都合の良いようにJCMのルールを変えていけば、実際には温室効果ガス排出削減の効果はないのに、削減に貢献したかのように見える場合が生じます。こうした制度の抜け穴を作らないよう、公平な評価の仕組みを模索して行く必要があります。
JCM(二国間クレジット制度)とCDM(クリーン開発メカニズム)の違い
JCM以前は、途上国と先進国が協力して、温室効果ガスの削減に取り組む制度CDM(Clean Development Mechanism:クリーン開発メカニズム)がありました。「先進国の技術協力によって、途上国の温室効果ガス削減の手助けをする」という基本概念はJCMと共通しています。
CDMは、京都議定書で提唱されたもので、環境省による「二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism(JCM))の最新動向」(平成27年4月)によれば、JCMとCDMの違いは以下の通りです。
JCM | CDM | |
ガバナンス | 分権的構造 (各国政府、合同委員会) |
中央集権的構造 (京都議定書締約国会合、CDM理事会) |
対象セクタープロジェクトの対象範囲 | より広範な対象範囲 | 特定のプロジェクトは実施が困難 (例: 超々臨界圧石炭火力発電) |
プロジェクトの妥当性確認 | ・DOEsに加えて、ISO14065認証機関が実施可能 ・提案されたプロジェクトが、客観的に判断可能な適格性要件に合致しているかを確認 |
・指定運営機関(DOEs)のみ実施可能 ・仮想のシナリオに対して提案された各プロジェクトとの追加性を評価 |
排出削減量の計算 | ・スプレッドシートが提供される ・モニタリングを行うパラメータに制約がある場合、デフォルト値を保守的に用いる |
・複数の計算式が掲載されている ・パラメータの計測に関する厳格な要件 |
プロジェクトの検証 | ・プロジェクトの妥当性確認を実施した機関が検証を行うことが可能 ・妥当性確認及び検証を同時に実施可能 |
・基本的にはプロジェクトの妥当性確認を実施した機関は、検証を実施できない ・妥当性確認及び検証は別々に実施されなければならない |
CDMは、CDM理事会が一括でプロジェクトを管理していましたが、JCMは2国間の代表者による合同委員会が管理しますので、管理・調整の面で簡単になりました。
また、JCMはCDMと比較して、対象となるプロジェクトの範囲も広く、特に省エネ技術に関しては、JCMプロジェクトとして認められやすくなっています。
排出削減量の計算では、JCMはスプレッドシートにより、簡単に計算できるようになっています。
プロジェクトの妥当性確認・検証においても、JCMはCDMよりも効率的で柔軟にできるようになっています。
CDMの炭素クレジットは、国際的な取引・移転が可能ですが、現在、日本政府は世界に率先して、JCMに取り組んでいます。
JCM(二国間クレジット制度)パートナー国一覧
日本は17か国とJCMの関係を構築しています。
2011年から各国と協議を始め、2022年11月現在までに25か国と署名を交わしました。
日本とJCMを構築している国 | 構築時期 | JCM資金 支援事業の件数 |
モンゴル | 2013年1月8日 | 8件 |
バングラデシュ | 2013年3月19日 | 5件 |
エチオピア | 2013年5月27日 | 1件 |
ケニア | 2013年6月12日 | 4件 |
モルディブ | 2013年6月29日 | 3件 |
ベトナム | 2013年7月2日 | 44件 |
ラオス | 2013年8月7日 | 7件 |
インドネシア | 2013年8月26日 | 47件 |
コスタリカ | 2013年12月9日 | 2件 |
パラオ | 2014年1月13日 | 5件 |
カンボジア | 2014年4月11日 | 6件 |
メキシコ | 2014年7月25日 | 5件 |
サウジアラビア | 2015年5月13日 | 2件 |
チリ | 2015年5月26日 | 11件 |
ミャンマー | 2015年9月16日 | 8件 |
タイ | 2015年11月19日 | 51件 |
フィリピン | 2017年1月12日 | 18件 |
合計 | 227件 |
以上のように、25か国に計227件のJCM資金支援事業を行っており、2,399,212 t CO₂ / 年の想定GHG削減量実績があり、日本政府発表資料「二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism(JCM))の最新動向」(2021年7月)によれば、日本政府の事業により2030年度までに累計5,000万から1億t CO₂ の排出削減・吸収が見込まれています。

JCMの取り組み事例
一例として、三井物産によるJCMを活用した温室効果ガス排出削減プロジェクトを紹介します。同プロジェクトは、カンボジア北部、メコン川西岸の森林資源を保護して温室効果ガス吸収量を維持すると共に、多くの希少生物や絶滅危惧種を守るものです。
この地域では、森林伐採や、森林の農地転用を通して生計を立てている住民が多く、森林資源の減少が問題となっていました。
そこで、プレイロング野生動物保護区を新たに定め、森林伐採を取り締まるとともに、地域住民には森林伐採に依存しない代替生計手段の提供を進めています。具体的には、稲作収量増加のための技術支援や、エコツーリズムの仕組み作り、また、はちみつ、ゴム製品など、農業作物の生産技術支援を行いました。
森林保護の評価には衛星やドローンが活用され、月ごとに現状報告がなされおり、透明性が保たれています。
詳しくは「開発途上国の森林保護による排出権(JCM) – Green&Circular 脱炭素ソリューション|三井物産 (mitsui.com)」をご覧ください。
JCM(二国間クレジット制度)について解説しました。
JCMにより、途上国は先進国から技術や資金の支援を受けられるため、自国のみでは出来なかった、温室効果ガスの削減事業に着手できます。
先進国は技術や資金提供により得られた削減成果を、自国の温室効果ガス削減目標に補填できます。
このように、両国間にメリットがあるため、今後JCMはさらに拡大してゆくことが予想されます。
日本は、世界に先駆けてJCMの取り組みをしてきた国であり、その経験やデータを生かして、今後JCMのさらなる普及に貢献できる可能性があります。